• 「船旅の夢占い〜Masami Takashima”Fake Night”に寄せて」

    2016-09-13 update

     

    ほのかに滲んだ夜景が、ECMレコードを思わせるジャケット・フォト(STEREOの但し書きに注目)。黒い中空に、差し色のように佇んでいるのが本作の作曲、演奏、そして歌唱を務めるMASAMI TAKASHIMA本人だ。

     

    Nite Jewelやtoro y moiなど、チルウェイヴの爆発的な流行からそれ以降、世界中のベッドルームから地下水脈のように、静かに、そして豊かに広がる宅録/シンセ・ポップ/グローファイの潮流は、しかし一時のハイプをやり過ごし、「うた」の音楽史にアダプトされそれを見事に更新している。チープさと硬さが同居した不思議なテクノ・トラックで溜め息交じりのソウルを歌うアトランタのABRAや、プリセット&MIDI丸出しのシンセでインターネット時代のサイケデリックを4コマ漫画感覚で描くロサンゼルスのJerry Paperなど、メジャー/インディ問わず面白い才能が続々と登場している。この二人を挙げたのは『FAKE NIGHT』と音像に共鳴性を感じたからだが、無論ここで記すべきはMASAMI TAKASHIMA オリジナルの情感についてだ。

     

    プリセット風のシンプルな音色のシンセサイザーとベース、ドラムマシーンも同様に質素、全編を通して決して高ぶらず均一のトーンで歌われるMASAMI TAKASHIMAのボーカル、これらはいずれもすべてが平行に、淡々と移動していく。ジャケットに描かれた夜空の、深みの中にごく淡く彩られたグラデーションと同じく、我々は彼女の発する音と声、それらのエコーが水のように消えていく様子を注意深く見つめねばならない。

     

    オープニング”Daydream”は、浮遊感溢れるコーラス&ヴォイスが、XXYYXXやGiraffageなど近年のポスト・ダブステップと共鳴する清潔感を漂わせつつも、ブレイクで聴かれるドラムマシーンの痙攣、そしてピアノとヴォーカルの響きのほのかに暖かいレディメイドなタッチはトラックの無菌室的な涼しさと調和を描く。アルバムはこのサーモグラフィで統一されている。

     

    また彼女の作家性を感じさせるのは続く”Somewhere”だろう。中間部のDAFを思い出させるニューウェイヴ/パンク・スピリットがモーターのようにシンセベースを唸らせるサウンドは彼女の2009年のアルバム『MODERN TEMPO(COET COCOEH名義)』収録のエレクトロ・ナンバー”初期衝動”とそのまま一貫するサウンドだ。”初期衝動”から”somewhere(どこかへ)”という展開に、彼女のアーティストとしての根本にある不変の芯と、そして新たな変化/深化を求める情熱を見て取るべきだろう。

     

    過去作との対比であれば、昨年リリースされた『GLASS COLLAGE』に収録されたナンバー「月夜のダンスパーティー」のニュー・バージョンについても触れるべきだろう。原曲ではレゲエ~スカ風に裏打ちしていたコードは緊張感あるストリングスのアタックに置き換えられ、レゲエ要素はダビングされたピアニカに転じた。エコーはより深く、暗く、染みるように響く。あっけらかんとしたカラフルさを打ち出していた『GLASS COLLAGE』に対して、本作が題名のまま「夜」の空気を濃厚に打ち出したアルバムであることを今一度感じさせる。

     

    ここで描かれる「夜」の風景は、一夜の夢として、MASAMI TAKASHIMA 本人の素朴な心性が音となり表れ重なり合っている。夢には生活の願望や悩みが表れている、などというせせこましい話ではなく、もっと根源的なイメージの豊かな表出だ。

     

    表題曲”Fake Night”の白昼夢めいてシュールな(単に「ぶっとんでる」とか「奇矯な」の類語として使われている語だが、原義的な話を持ち出すまでもなく、強く日常を観察している者だけがシュルレアリストを名乗ることができる)歌詞に代表される、ドレス、ミモザ、ロマン派、太陽、哲学と云った語がもともとの意味や文脈を失い、その語が持つきらびやかなイメージだけで交差し合う様は、鮮やかにデコラティブながら夢占いのような素直さと無防備さをこちらに見せつけている。アーティストとしての名義をCOET COCOEHから個人の名にシフトしたのは、レーベルTWIN SHIPS RECORDSを発起するに当たっての心構えなど様々な理由は予想されるが、このアルバムで聴かれるそんな「無防備さ、素直さ」と共鳴しているように筆者には思えた。

     

    夢占いにおいて、船は、人生の分岐点や区切り、新たなステージへの移行を象徴し、また夜の船旅は自分自身の無意識にあるアイデンティティを見つめ直す意味を持つと言われる。Masaki Takashimaがこの度発足した音楽レーベルTWIN SHIP RECORDSは、本作のリリースを皮切りに、自身の別ユニットmiu mauの久しぶりの新作などを予定している。香川-福岡という二つの港町を拠点に、マイペースながら精力的な活動を目指すMasami Takashimaと彼女のレーベルの静かな船出をここに寿ぎたい。

     

     

    テキスト:小鉄
    1990年生まれ。香川県在住。文筆家として「Quick Japnan」「Bounce」「ミュージック・マガジン」などの音楽誌、ニュースサイトなどに音楽批評を執筆。ブログ「ピチカート愛撫」運営。地元・四国ではニューウェイヴ・ファンクバンド「ピクニック・ディスコ」やDJ、トラックメイカーなどの音楽活動を行なう。
    twitter/instagram @y0kotetsu
    http://pizzicatoaibu.tumblr.com

     

     

     

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    MASAMI TAKASHIMA「FAKE NIGHT」

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    収録曲目 :
    1 Daydream
    2 Somewhere (album version)
    3 Fake Night
    4 Light and Shadow〜夜が明けるまで
    5 Night River
    6 Dance Party(Re­Edit)〜月夜のダンスパーティー
    7 Romantics〜ロマン派の恋
    8 Cosmic Sea
    9 Quiet Night
    10 On The Town Square〜町の広場で
    11 In a Fog(Album version)

     リリースインフォメーション

      

      

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