• Masami Takashima interview [1]

    2023-09-20 update

    通算6枚目となるソロ・アルバム『Polyphonic』をリリースしたMasami Takashima。コロナウィルスを始めとする激動の時代の中で作られた「音」と「歌」の数々を、今あらためてインタビューという形で語って貰った。第1回となる今回は『Polyphonic』の制作に至るまでの近年のライブ、活動について改めて振り返る。とりわけトラックメイカーを中心とした自主企画『MIX BUS』については、並々ならぬ思いが言葉の節々に宿っていた。(取材/構成 Kotetsu Shoichiro)kotetsu-shoichiro.com


    [1]アルバム制作に至るまで~新たな自主企画『MIX BUS』について



    ──アルバムの完成とリリース、おめでとうございます。自分は昔からMasamiさんには何かとお世話になっているのですが、改めてお話を伺うのは初めてなので、楽しみです。



    ありがとうございます!よろしくお願いします。


    ──この数年のMasamiさんの活動や制作環境は、何か変化はありましたか?具体的に言えば、2020年は新型コロナウィルスによって、ミュージシャンの活動というのは否応なく変化させられたと思うのですが。


    この数年はとにかく家にいる時間が中心でした。当初は、ライブ自体をやるかどうかで凄く悩んでいて、常に葛藤がありました。


    ──あの時期、ライブが出来ない分、曲作りに専念するミュージシャンも多かったと思います。Masamiさんもそうですか?


    そうですね、やっぱり音楽は止めたくなくて…… 曲自体は(コロナ以前からも)ずっと作り続けていました。2020年の、コロナが始まった時期ですが、 ドラマーのmineo kawasakiさんとの演奏を岩谷さんに以前録音してもらったままになっていた未発表のトラックがあったので、鍵盤系を自宅で追加して、配信でリリースしたりもしました。ほかにもエマーソン北村さんとリリースの話も持ち上がったりしたので、家で出来る制作に力を注いでましたね。 この頃はライブをやるのも観に行くことも出来なくなった時、私自身が聴きたかったのが「いい歌」でした。その頃はとにかく「声」を出しちゃいけない、人と会って話すことも躊躇するようなタイミングで。でも心が震えてビリビリするような「いい歌」が聴きたかったんです。


    ──社会的な状況に反して「歌いたい」という気持ちが強まったと。


    「歌いたい」よりは「歌を聴きたい」という気持ちの方が強かったですね。「声」という身体を使った音楽に改めて魅せられた、というか。


    ──なるほど。「声」にしろ「歌」にしろ、Masamiさんの書く歌詞の中にもよく出て来る言葉ですよね。ライブの話に戻りますが、2021~22年にかけて、ライブ活動も様子を見ながら再開した感じでしょうか?


    そうですね、2020年は後半に1本だけ。様子を見ながらという感じですがその後も本数はとても少なくてほとんどは自分で企画したイベントですね。人数制限だったり、対策など自分が全体を管理できて、コロナ禍でもイベントとして納得できる形となると、どうしてもそうなったという感じです。22年の後半あたりからはライブをやっていこうという気持ちで動き始めました。


    ──コロナで東京や他県への移動が厳しくなった結果、拠点としての「香川」という場所について考える機会も増えたと思うのですが、いかがでしょうか。


    それは凄くありますね。もともと私は東京ではない場所でずっと音楽を作ってきたし、ライブという環境に長く身を置いていて、小さいベニューから新しい音に出会う機会が本当に多かった。だから各地で長く音楽を温め続けている人たちをとてもリスペクトしてます。コロナが始まってそうせざるを得ない状況ではあったとはいえ、次々と各地でライブ配信が始まっていく中、私は割と他県のライブ配信をよくチェックしてました。普段は対バンにならないとなかなか見る機会が少ない各地で行われる演奏をたくさん見れたことはとても大きかった。やっぱり、身近な所でいい音楽に出会いたいし、音楽を育んでいくとは?という問いかけの気持ちが増えました。

    MIX BUS vol.3 photo by 緑


    ──2022年からは、高松の新ベニュー燦庫(さんこ)にて『MIX BUS』という実験的なイベントも企画されてますよね。これはどういったイベントか改めて説明していただけますか?


    トラックメイカーが、共通のBPMで一曲交代でライブをしていく(BtoBスタイル)というコンセプトで、これまでに4回、開催しています。『MIX BUS』を始めたきっかけは、以前からトラックメイカーに注目したイベントを行いたいと思ってたのと、自分の住んでいる町に根差した何か(面白い企画が)出来たらいいなあと。自分自身がトラックをずっと一人で作ってる中で、一度外に出してはじめて自分の音を知るみたいなことはとても多くて、これ(トラック制作)を他者の音楽と並べてみたらどうなるんだろう?という所から始まりました。それとトラックメイカーの作ったばちばちにかっこいいトラックをライブで聴きたいというのもありました。


    ──打ち込みって基本、一人でやる孤独な作業ですからね。それが良い所でもありますが、人とやる面白さってありますよね


    はい、他者の音を意識することで、自分一人では考えつかないような、想定外の音に出会いたい、という気持ちありました。参加して下さったトラックメイカーの皆さん、一人一人感想は違うと思うんですけど、私自身はめちゃくちゃ手応えがあって。私はこれまでのライブはDAW上で作ったトラックをPC経由で再生してその上にシンセなどの演奏を重ねるというスタイルでやってましたが、MIXBUSではこれまでやってこなかった手法に変えたので自分が演奏において出来ることってまだまだ少ないな、努力が必要だなと思いましたね。毎回とても学びがあります。

    それと、作る過程そのものが楽しい、音楽を作る面白さも改めて感じました。(MIX BUSでは)その場でループを作るスタイルのライブを行なったんですが、それが鍵盤の演奏へもフィードバックがあったんですね。ビートの感覚というか、フィジカルな影響が得られたのは嬉しかったです。


    ──『MIX BUS』は自分も過去参加しましたが、CHAKRAというヒップホップ・クルーからHch、Blueberry、DJとしてPheme、summer-ko、akkyanなど香川~四国で活動するトラックメイカーやDJをピックアップしていますが、出演するメンツも独特ですよね。


    そうですね。ジャンルを限定しないというのは意識しています。HchさんはMPCを使ったライブでしたが、ハード機材を使うジャンルって限られがちだからできるだけひとつのジャンルに集約しないようにしたかったのと、なるべく、性別の配分が偏らないようにしたくて……香川というか、四国で見ても女性のトラックメイカーって凄く少なくて、なのでyo-koさん(blueberry)には絶対、声をかけたいなと。MIX BUS2回目は意識的に私も含む全員女性というスタイルで開催しました。Blueberryさん、DJ Rica’Xさんお二人とも長くDJの現場で活動されてて、DJとしての経験もスキルも豊かで、お二人のつなぎ(ビート→DJ、DJ→ビート)が唸るほどに素晴らしくて、そういう体験をこつこと作っていきたいと改めて思いました。


    ──DJやトラックメイカーのボリュームゾーンとして一番多いのは20代後半~40前後の男性が多いと思うんですが、パッと選ぶと、結果として男性ばかりになってしまいますよね。そういったバランスを変えよう、という動きは欧米~東京の一部の音楽シーンでは徐々に広がりつつありますが、これが地方で、かつ特定の音楽スタイルと限定していくと、とても難しい。


    そうなんですよね。主催の私は女性で、主に長くライブの現場にいます。女性三人のバンドでも活動していますが、香川ではジャンルを絞ると特にですがイベントの出演者のバランスをなるべく均衡にしようとなるとなかなか難しい。トラック作ったり、作曲したり演奏やDJしたりというのが性別関係なくどんどん増えていくといいなと思っています。
    それと、話は少し逸れますが、MIXBUSに遊びにきてくれてフロアで見てくれてる方で、家でトラック作ってるという20代くらいの方が結構いて色々話ができたり、フロアのあちらこちらで音作りの情報をシェアしたりなどの機会もあってとてもよかったですね。小鉄くんは『MIX BUS』どうでしたか?


    ──他の人がトラックを作っている・演奏している様子を見て「自分ならあのドラムはこうしているな」「自分だったらこのエフェクターを使うだろうな」みたいなことを思った時に、何ていうか、人の動きを通して自分を知る、という場面が多くて、面白かったですね。トラックメイカーとしてそういう体験が得られるイベントは、香川と言わず、地方では珍しいのではないかと思います。ジェンダーバランス的な観点でのイベントの構成についても非常に意義があると思うし、それが結果としてイベントの面白さ・新鮮さにそのまま反映されてますよね。



    次を読む
    [2]アルバム『Poliphonic』制作~参加ミュージシャンについて


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    Masami Takashima interview
    [1]アルバム制作に至るまで~新たな自主企画『MIX BUS』について
    [2]アルバム『Poliphonic』制作~参加ミュージシャンについて
    [3]制作の裏側~アルバムについて更に深掘り

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    アルバム特設ページ
    https://twin-ships.com/masamitakashima/polyphonic
    TWIN SHIPS RECORDS ONLINE SHOP
    https://twinships.base.shop/items/78402587


      

      

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