• Masami Takashima interview [3]

    2023-09-20 update

    『Polyphonic』リリースに合わせたMasami Takashimaロング・インタビューも、いよいよ最後となる第3回。アルバムのアートワーク、音質・音像へのこだわり、影響を受けた音楽、拠点である香川という場所について──Polyphonic(多層性)の更に深い部分を(取材/構成 Kotetsu Shoichiro)kotetsu-shoichiro.com



    [3]制作の裏側~アルバムについて更に深掘り



    ──『Polyphonic』ジャケットの、砂漠に一輪の花が咲いているアートワークを手掛けた4hoさんですよね。大阪を拠点とした4ピースバンド・ANYOのヴォーカルを担っている方ですが、これはどのような流れで?


    ANYOとは以前、イベントでご一緒にさせて頂いたことがあるんです。その時に、4hoさんが手掛けられた、ご自身のバンドの素敵なジャケットのお話を聞かせてもらったのですが、石をモチーフにした、と仰っていたんです。それが凄く印象に残ってて。
    『Polyphonic』のジャケットについては、女性のミュージシャンにお願いしたかったのと、イラストのような表現方法とは違った切り口の以外のものにしようと思ってたんです。それで、ジャケットの作業に取り掛かるタイミングで、たまたまライブに関することで別件でANYOのベースのカヤマテッペイさんとやり取りしている中で、4hoさんとの会話のことを思い出して、ダメ元でお願いしてみた所、引き受けて下さった……という流れですね。
    4hoさんには歌詞と音源は送りつつ、アートワークについて「人物を使わないこと」と「性別を問わず、誰にでも手に取りやすいもの」という二つのテーマだけで、後はお任せでお願いしました。


    ──ちょっとプログレのシュールなジャケットみたいで面白いですよね。

    この花はアイスランドポピーとのことなんですけど、アルバムのタイトルから連想してこの花を選んだそうです。普段からモチーフを決めてコラージュに物語を持たせるという方法で制作されていると聞きました。アイスランドポピーは日本でも園芸ファンにも人気があるそうなのですが、アイスランドポピーには伝統的にいろんな象徴や意味が含まれているらしいし、コラージュ作品という意味でもアルバムのタイトル(Polyphonic=多層的)や内容とも重なる部分もあり、良いんじゃないかと思ってます。制作を引き受けてくださり嬉しかったです。


    ──イベントで知り合った、仲良くなった、という人が多いですね。


    そうですね。私の場合は、やっぱりミュージシャンをライブで観たいというのがあって、『MIX BUS』も基本的にはライブを観たことがある人を中心に出てもらっているので、ライブやイベントっていう場所は自分にとって凄く重要ですね。


    ──一番、音楽的な人となりがわかる場ですよね。ライブハウスやクラブでお世話になっている、思い入れのあるスポットというとどこになりますか?


    香川だと、井川さんの燦庫とTOONICEもそうですし、あとLux(ルクス)でも、配信やアンビエントのイベントなど、いろいろチャレンジングな企画をやらせて貰ってますし、お世話になってる店ですね。

    香川って意外と演奏できるハコが多いと思うんですね、人口に比べると。ライブハウスも多数あるし。以外でもライブもできDJが集う飲食店や、本屋、服屋など、いろんな場所やお店でライブが出来て、他ジャンルとの距離が近いのは香川のいい所だなと思います。


    ──アルバムのミックスは、Masamiさんの過去作も手掛けている岩谷啓士郎さんが行なっていますが、独特の空間を感じさせる音像ですね。音の質感に関してこだわった部分はありますか?


    私も含めて自分でDAW上で制作する人が増えている中で、マイキングしてちゃんと録音することの重要性みたいなことをとても意識していました。
    レコーディング・エンジニアの方にお願いする場合、ドラムやピアノ、ボーカルなどの生音の楽器をどのような音の仕上がりにするのかを相談して録音をスタートするのですが、今回、岩谷さんにお願いする時も、曲ごとにこういう風に録りたいとリファレンスとして渡した音が全部、マイクをオフめというか、離れた場所から録っているようなものが理想だったんですね。私がもともと、マイク1本で録ったような離れて鳴っているような音が好きなのですが、そこはかなり意識して録って貰いましたね。ピアノもすごく良い音になっていて。国産の親しみのあるアップライトピアノを使っていますが、今回の録音にはこのアップライトの感じがすごく合ってました。

    それと、私はボーカルの録音がとても苦手なので自分で録音するときは地獄の歌録りと呼んでいるのですが、今回も覚悟していたけど、想像とは反してボーカル、コーラスともに平均すると2テイクくらいで録れて。それは岩谷さんとの信頼関係によるものだと思いました。それと『読書感想文』という曲については自宅のチューニングの合ってないとても古いピアノを使った演奏をiphoneのマイクで録ったものをそのまま使っています。フィールドレコーディングともいえますが、椅子の音やペダルを踏む音もそのまま入ってます。歌も結局iphoneのマイクで録ったものを使ってますね。『Port』の最初のノイズっぽい音は自宅の洗濯機の不調の音をiphoneのマイクで拾ってサンプリングして加工した音だったり、端々でも自分で作った音を入れてます。

    全体の音の作りは音質にこだわり音圧を重視しない音作りになっていて、全体を通してどこか違和感が残るようなそういう音作りを目指したので、結果的に独特の音像と感じる人が多いのかなぁと思います。


    ──今回のアルバムを作っていく中で、参考にした音楽、影響を受けた音楽はどのようなものでしょうか。


    現行のLAのミュージシャンによる、ジャズやネオソウル、R&Bのアルバムはよく聴いていました。ラップの入ってないヒップホップや、BEATRICE DILLONなどのUKの電子音楽もよく聴いてました。ロック寄りの音ではないようにしたいな、と思っていました。ジャズっぽい音作りもそうですし、あとコード進行についても、影響はあるかと思います。


    ──制作過程から参加ミュージシャン、ミックスについてとお聞きしてきましたが、アルバム全体として、完成した今の手応えはどのようなものでしょうか?

    まず、歌詞はすごく、納得のできるものが作れたかなと思います。ふだん歌詞には使わない言葉、これから言葉としては消えていくんじゃないか?と思うような言葉を、意図的に歌にしたいなと思って書きました。


    ──それは例えば『惑星』という曲の”スクリューして聴いた曲名”のような部分ですか?スクリューというのは、ヴェイパーウェイブとかヒップホップなどでよく使われる、エフェクトというか技法ですよね。


    そうですね、スクリューという言葉も、クラブの現場だと普通の用語だと思いますが、ほとんどの人はあまりよく知らない言葉だし、私はDJではないからその言葉を使うことに少し躊躇いはあったけど、実際にスクリューしてBPMを変えたりしている音を聞く機会もあるので使うことにしました。それと、自分の普段の生活を歌ったりというようなことは、これまでやって来なかったんですけど『読書感想文』なんかは、実際に生活の中で見付けたことをモチーフにしていますね。『読書感想文』は社会的な問いかけを含んでいますが、他のトラックでも誰かに問いかけるような内容が多いのも、意図した部分ですね。

    とにかく、歌詞についてはこの数年考えてきたことが形にできたし納得のいく内容が出来たな、と思います。幼くないものというか、自分の年齢に近い感覚で書けたと思います。


    ──世の中には「不惑」なんていう言葉もあって、年齢を重ねるごとに迷いが無くなるような考え方もあるのかも知れませんが、実際にはいろんな人に出会い、経験を経るごとに、何かを即断することって出来なくなってくるんじゃないかと最近よく思うんです。AとBどっちも捨て難いという状況が多すぎるし、むしろ迷うことって増えるんじゃないかと。でもラップなんかが顕著ですが、歌とか歌詞って「Aが最高、Aしか無いぜ」という二者択一的なものの方が書きやすいですよね。二者択一でない、即断でない、ある意味で「考えている」状態を歌詞として仕上げていくのは凄く難しいし、そこに挑んでるなと、個人的には今回のアルバムを聴いていて思いました。アルバムの『Polyphonic』=多層性というタイトルも、そういう意味かなと。


    ありがとうございます。そもそも多声的なという音楽用語だし、シンセサイザーのMonophonic(単音)とPolyphonic(多音、和音)ともかかっていますが、たくさんの人と関わって作ったアルバムでもあるし、そのテーマについてはアルバムのいろんな面で感じていただけるんじゃないかと思ってます。


    ──特に、こういう人たちがアルバムを聴いてくれたら嬉しい、という思いはありますか?


    そうですね、私と同世代の人たちって、音楽を聴く時間が生活や仕事によってどんどん減って来ている人が多くて。そういう人たちも、音楽をまた聴き始めるきっかけになるような、そんなアルバムになればいいなと思ってます。

    あとは普通に、世代を問わず、音楽が好きな人には聴いて欲しいアルバムですね。私は電子音楽やジャズ、近年だとLeaving Recordsからリリースされた音楽なんかをよく聴いてるんですけど、私が好きなミュージシャンって、いろんなことが出来る人というか、ひとつのジャンルに絞れない活動の人が多いんです。


    ──Masamiさんはピアノも弾かれるし、シンセサイザーやドラムマシンでトラックも作るし、アルバムも歌を中心としたものから、アンビエントのものも作りますよね。自分なんかもそういうタイプですけど、一言で自己紹介するのが難しい活動スタイルだと思うんですが……。


    色々やって、何やってるんだって感じですよね(笑)トラックを作ってるとか、鍵盤を弾いてますとか、レーベルやってますとかざっくり答えてますが……人によっては、私は歌を唄う人で「シンガー」なのかも知れないけど、いわゆる「シンガー」のイメージというか、場をワッと盛り上げるような感じでもないですし。


    ──何何の人、というより、ありのまま”Masami Takashima”でしかない、という感じですよね。

    うーん、そう思って貰えてたとしたら、ありがたいですよね(笑)



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    Masami Takashima interview
    [1]アルバム制作に至るまで~新たな自主企画『MIX BUS』について
    [2]アルバム『Poliphonic』制作~参加ミュージシャンについて
    [3]制作の裏側~アルバムについて更に深掘り


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    アルバム特設ページ
    https://twin-ships.com/masamitakashima/polyphonic
    TWIN SHIPS RECORDS ONLINE SHOP
    https://twinships.base.shop/items/78402587

      

      

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